タイトル

■妄想列車■

 鉄道業は基本的にはお堅い職種です。制服制帽に白手袋、着帽時の挨拶は挙手の礼いわゆる敬礼。その容姿は警察や軍隊に通じるものがあります。人々の生命財産を安全に輸送しなければならないのですから、堅実であって当然なのですが、仕事中ずっと堅苦しいのかと言えば決してそうではありません。旅客から見えない休憩所では、職場仲間同士楽しく談笑しています。仕事中に失われた笑いやユーモアを埋め合わせるように、よく笑い、様々な冗談が飛び出します。
 緩急つけるって大切なんですよね、機械じゃないんだから。休憩中には充分にリラックスし、ゲラゲラ笑い、ひとたび列車担当時間が来たならば、気を引き締めて職務に臨む、それが大切なんですね。よく言われる言葉なのですが、休息も仕事です。職務を良好なコンディションで遂行するのに、充分な休息と気分転換は必要不可欠です。
 今の経営者は、我々が人間であること、人間であるがゆえに守れる安全があることを理解できないので、休憩時間や設備はおろそかにされがちですし、休憩中でも監督職に乗務員を指導をさせたがります。その指導内容には、古い乗務員とあまり口を利くなといったものまで含まれるのですから呆れたものです。
 ま、それでもですね、乗務員はけっこうしたたかにできているので、監督職の諌言を無視して冗談という名の健全なコミュニケーションとリフレッシュを欠かすことはないんですけどね。

 JRの関係者によって著された、鉄道の安全についての調査研究書に、こうありました。すなわち、笑いの少ない職場ではミスが増える傾向にある、冗談を言い合って笑顔で現場に出て行くことはミスを防ぐ有効な手段である。監督者が現場のコミュニケーションを疎外するような職場、いわゆる風通しの悪い職場というのもミスを増長する大きな原因である。
 経営者どもが読んだたら気分を害することでしょうね。彼らは、職場のコミュニケーションを寸断し、労働者の団結力を疎外することに余念がないのですから。

 それでも職場から笑いと冗談は絶えませんし、最近のオタク人口の増加により、冗談にもますます磨きがかかりつつあります。
 会社は、契約社員やアルバイトの増強に当たり、多くの鉄道マニアを起用しました。好きなことができるんだから、低賃金でも文句は言わないだろうというわけです。ところが、この鉄道マニアは、鉄道オタクの異名を持つニュータイプだったんですね、これが。
 彼らは、よく妄想しますし、こちらが妄想話しをするとよく食いついて来ます。妄想の多くは、素晴らしいアイディアであり、これを新サービスとして導入すれば、旅客の誘致につながるんじゃないかと思うようなものもあります。会社は現場の意見やアイディアなどクソ食らえなのでしょうがね。
 乗務職場で、長く生きてきた筆者が、最近の若い妄想家たちに一言いわせてもらうならば、まだ全然足りない、なおいっそう気合い入れて妄想すべし!…です。

カラオケ列車

 これはまぁ、ありふれたアイディアですね。電車の中がカラオケボックスと化すわけですよ。ご存知のように電車は、車掌による車内アナウンス設備を搭載しているので、これを少しばかりいじくれば、車両ごとに独立したボックスを造ることもできます。
 走行する列車の中で大カラオケパーティなんて、案外楽しいかもですよ。ふつうは閉塞的な室内で行なうものでしょ? それを流れる景色の中、揺れるステージでよろめきながら歌うなんて、雰囲気が変わっていいかもですよ。
 ノリノリで歌って踊るうちに電車の動揺で転倒したり、せっかくのサビの部分の聞かせどころで、鉄橋やトンネルの騒音で聞こえなくなってしまったり。
 突然の急ブレーキに転倒して、そのまま丸々1両分スライディングかましたり。
 でも、あまり流血事件が続発すると中止になっちまうかもです。あと、都市型列車にはトイレの設備がありません。途中1回しかトイレ休憩をとらないのでご注意を。休憩のための停車時分も数分しかありません。駅のトイレまで猛然とダッシュし、大急ぎで用を足したなれば、再び猛然と階段を駆け上がり、列車に戻るです。乗り遅れても待ちません。ダイヤが乱れますからね。

怪獣列車

 たとえば、電車がモスラの幼虫やねん。知ってます? モスラの幼虫。東映映画のゴジラシリーズで、正義の味方の怪獣として大活躍しました。なんかこう、生地にチョコレートを練り込んだコルネパンみたいな形状をしていて、口から糸とか吐くのです。で、そのうち吐いた糸で繭(まゆ)を作って、やがてデッカイ蛾(が)になってドワーッとか飛び立ちます。
 巨大で不気味に長いモスラの幼虫がですね、ゴゴゴゴーッなんてプラットフォームに入って来たら、子供たちも大喜びですよね。……ちょっと、そこの子、なんで泣いてるんですか。こんな可愛いのに。
 モスラの幼虫の横っ腹が、どろどろっと開いたならば、薄暗くて生暖かい体内に乗り込むがいいです。そこのお嬢ちゃん、なんで尻込みしてるんですか。お母さん、見てはいけませんとか言うんじゃないですよ。お金かかってるんですから、これ造るのに。たぶんいろんな意味で、運輸局から間もなく運用禁止の指導がはいりますからね。今しか見れませんよ。
 鉄道マニアのカメラマン様、そうやってせいぜい写真撮るがいい。あなたたちだけだね、この素晴らしいセンスが解るのは。
 よし、じゃあこうしましょう。運転士がゴジラの着ぐるみ着てるねん。で、車掌はメイドさんでどう? いや、トロピカルないでたちの双子を乗せますかね、やっぱ(この元ネタわかります?)。
 そういえば、最近は怪獣映画もとんと見なくなりましたねぇ。流行らないのかなぁ。流行ってないなら流行らせばいい。
 ………。
 ダメですか、やっぱり。

お座敷列車

 とりあえず、床一面に畳を敷きましょか。座席は取り払って、座卓と座布団(あるいは座椅子)を2つ3つ置きます。乗車したらまず靴は脱いで下さいよ。上がりがまちの段差に気をつけましょう。え? 段差はなくせって? そんなふうにしたら、雨天時に雨水が入り放題ですよ。
 座卓の数が少ないのは、あまり気にしちゃいけません。あんなものは、雰囲気作りのための演出ですから。飲み物は持ち込み可ですが、フタのできるペットボトルに限らせていただきます。電車は揺れますからね。
 お座敷列車の醍醐味は、車内で宴会とかやらかすことではござらんのです。畳の上に寝そべってですね、列車の揺れに体を預けてゴロゴロ転がるのがいいんじゃないですか。長距離フェリーの2等客室のザコ寝みたいなもんです。貧乏くさいですね、今どき。
 たまには、リッチな気分なんか忘れて貧乏くささを満喫しましょう。貧乏リラクゼーションですってば。
 ちょっと足が当たったくらいで目くじら立ててはいけません。ゆずり合いと思いやりこそが貧乏の醍醐味です。
 誰です? 芸者呼べとか言ってるのは。舞子はんが踊る前に終点に着いちまいますって。長距離列車じゃないんだから。ドアは襖(ふすま)か障子がええって? そんなもん風圧で粉々に吹き飛んじまいますよ。屋形船じゃないんだから。
 お姉さん、座敷にスカートはダメですって。女性専用車両作れって? 女性同士でも事情は変わりませんって、他人様と同室なんですよ。
 子供たちがちょっとくらい駆け回ったって、そんなに恐い顔しないんですよ。今の都会暮らしは、子供たちが元気に駆け回る場所はあまり残ってないんですから。大丈夫です、壁面は柔らか設計ですから。じゃあオレも、なんて言わないでください、お父さん。あんたが転んだら周りが怪我します。
 いいですねぇ、子供たちの歓声。酔っ払いのじじいの怒号は滅びてほしいけれど、子供たちの声はBGMにしていつでも流してほしいくらいです。駅の売店に"子供の声CD"とか売ってないんですかねぇ?

 いかがです? 貧乏くささと他人への寛容を満喫しましたか。いいですね、おもろいですね、人間って。むかしを思い出しません? むかしはみんな貧しかったけど、心の豊かさがありましたよね。
 癒されましたね。それではスーツのえりを正して、殺伐とした現代社会のただ中へ舞い戻るがいいです。またのご乗車をお待ちしております。

駅配君

 鉄道会社はほとんどの場合、沿線の土地を利用して、種々の商業施設を経営しています。大都圏の駅前には、いろんなものがそろう大型デパートが並んでいます。しかし最近は郊外に大きな駐車場を完備した量販店の利便性に圧されがちで、売り上げが伸び悩んだり、落ち込んだりしているのだそうです。
 それでも都市圏には、様々なレジャー施設等も充実していますから、ショッピングだけでなく、映画を観たり食事をしたり、多目的な過ごし方ができます。
 ただ、買い物すると手荷物が増えるんですよね。買物袋をたくさん提げて歩き回ることを思うと、電車でのレジャーもユウウツになってしまいます。
 そこで登場するのが駅配君です。デパートで買った品物を、専用のボックスに収容してお店に預けておくと、それを電車が自宅の最寄り駅まで運んでくれるのです。都市型電車は通勤通学時間帯のラッシュ時を除くいわゆる閑散時は、ガランとした車内を持て余しているものです。これを利用して閑散時に駅配君専用車両を設け、駅相互間の小荷物配送を行なうわけですよ。
 デパートの係の人は1時間置きていどに駅まで荷物を運びます。列車に積み込まれた荷物は、専用ボックスの表記に従って目的の駅に降ろされ、駅で保管されます。
 手ぶらになったあなたは、身も心も軽くなって映画やゴージャスなディナーを満喫して下さい。たっぷり楽しんだあとは、そのまま手ぶらで自宅の最寄り駅まで電車に乗れば、駅に荷物が届いているというわけです。
 手荷物を持ち歩くのが大変で、コインロッカーを利用したことはありませんか? 駅配君ならご自宅近くの駅まで荷物が自分で移動しているわけですよ。便利ですね!
 駅配君は、定期便輸送なので時間が来ないと発送しません。手荷物を預けてすぐに帰宅すると、あなたの方が早く着いてしまうかもしれません。お帰りが早い場合は到着時間について問い合わせておきましょう。これとは逆に、回収が遅すぎて(数日後とか)中身が腐ったとかいうのもイヤですよ。生鮮食品の低温管理については……今後の課題ですね。

萌え特急日本橋行き

 僕たち私たちの妄想列車といえば、やっぱこれしかないって感じですよね。オタク街へ向かう特別急行列車は、実現したらきっとかなりの需要がありますよ。
 で、一部の車両では客室メイドカフェでも営業しましょうか。電車のドアが開くと、いきなりメイドちゃまが「お帰りなさいませ」なんて出迎えてくれるです。知らずに乗車してしまった一般の方も、メイドクォリティがいかほどのものか、ここで実体験してみるです。
 意外と普通なんだ、と思うかもしれませんし、新境地に開眼してしまうかもしれない。メイドちゃまにお給仕してもらわないと癒されない体になってしまうかもしれない。
 で、ついでにそのままオタク街入りして、マジもんのメイドカフェ(メイドリフレもあるよ)に突入するがいいです。

 ところで、日本橋というのは鉄道の便のいまいちよろしくないところでして、大阪地下鉄堺筋線や千日前線の日本橋で降りたところで、オタク街はおろか、電気街すら見当たりません。電気街なら堺筋線の恵美須町で降りなければなりませんし、オタク街の中心に最短の駅は、南海電車のなんば駅になります。地下鉄御堂筋線なんば駅や、近鉄やJRの難波駅で降りた人は、日本橋(駅ではなく街としての)までトットコ歩かねばなりません。初めての方が無事に辿り着けるか、心配でなりません。「オタク街↑」なんて案内表示はどこにもありませんしね。
 日本橋に行きたいのに、日本橋駅で降りてもダメ、それが日本橋なのです。

 日本橋のオタク街には、誰が名付けたか、オタロードと呼ばれる目抜き通りがありますが、そこへひょっこりと出られる地下鉄の駅を1つ造ってほしいものですね。地下鉄堺筋線の日本橋と恵美須町の間にT字型に分岐する線路を敷くためのトンネルを掘って、オタロード駅を新設しましょう。で、11時から22時のメイドちゃまタイムには、堺筋線はオタロード駅を経由して走るです。メイドちゃまの出退勤を考えると、10時から終電までかな。
 じゃあ前述の萌え特急は、日本橋行きではなくてオタロード行きかな。天神橋筋六丁目方面から動物園前や天下茶屋へ行こうって人が、誤って客室メイドカフェに乗り合わせでもしたら、そのままクモの糸にからめ取られるように、オタク街へ取り込まれちまうわけですね、これが。
 こうして今日もまた、オタクカミングアウトする人が増えるって寸法ですよ。

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