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上司が仕事のじゃまをする

 夕方以降から夜間あるいは雨天で視界が暗くなると、運転士は電車の運転にバックスクリーンを使います。鉄道会社によってブラインドとか遮影幕とか言い方はいろいろですが、要するに乗務員室と客室を仕切る扉の窓を幕で覆い、客室の照明が乗務員室に入って来なくするものです。車内が明るいのに対して車外が暗くなると、フロントガラスに車内が映り込んで視界が妨げられ、それを防ぐために用いるわけです。
 バックスクリーンを使用すると、当然のことながら客室から乗務員室が見えなくなり、フロントガラス越しの前方の景色も客室からは見えません。電車の先頭に乗車して前方の景色を楽しみたいという旅客にとってはそれを妨げられるわけですが、車内より車外が暗くなると、フロントガラスと同様に客室と乗務員室を仕切る扉の窓にも映り込みが生じ、運転士がバックスクリーンを使わなくても前方の景色は見えにくくなります。
 しかしながら、まだ充分に明るいのにバックスクリーンを降ろしている、といった苦情が時おり駅などに寄せられます。
 車外の明るさは走行中刻々と変化します。様々な地形や建造物の間を走っているわけですから。夕闇が近づく時間帯のバックスクリーンの使用は安全運転にとって重要なのです。
 それなのに、最近の職制は旅客の苦情をそのまま運転士に伝え、バックスクリーンの使用を控えさせようとします。現場の職制のほとんどが運転経験者なのですが、現職を離れると安全運転について忘れてしまうようです。
 苦情旅客にしても、適切な説明を受ければ納得できるし、むしろ謝罪や言い訳よりも説明を聞きたいはずですが。

 同じバックスクリーンの件で、終着駅に着いて電車の前と後ろが反転すると、車掌が車外の明るさを配慮してあらかじめバックスクリーンを降ろしておくという習慣が乗務員にはあります。終着駅での折り返し時間がひじょうに少ないダイヤでは、運転士にとってはたいへん助かります。出発準備の手順が1つ減るわけですから。それと旅客への配慮としても有効なのです。バックスクリーンは窓が3枚ある場合、運転士の後ろと中央の窓に対して使い、あとの1枚は開けておきます。運転に支障ないからです。で、あらかじめバックスクリーンが降りていれば前の景色を見たい人は開いている窓のところの席に着けば良いわけです。
 バックスクリーンが降ろされておらず、運転台の後ろの席に小さなお子様が座っていたりすると、ひじょうに悲しくなります。車掌が幕を降ろしておきさえすれば、その子は開いている窓のところの席を選んだはずです。運転士は心を痛めながら子供の目の前の幕を降ろします。
 車掌によるこの協力体制は数十年の歴史の中で乗務員の間で培われた文化なのですが、最近の若い車掌はこれを実施しません。上司に叱られるからです。運転士の仕事を車掌が手伝うなというわけですね。
 長い歴史の間続けられてきた協力体制をどうして禁じるのかと尋ねると、上司は安全のためには余計なことをしない方が良いと、曖昧な答えを述べ、具体的な説明はしません。黙って従え、オレが上司だ、というわけです。なんて無能なのでしょう。

 創業100年が当たり前の、関西の長い私鉄の歴史の中で、これほど上司が無能ぶりを発揮し続ける状況はかつてありませんでした。こうした上司の質の低下を招いたのは、言うまでもなく会社の腐敗です。長く生きながらえた企業が上層部から腐敗して行くのは、ある種の必然性で、それは矛盾や不当となって現場にも垂れ流れて来ます。そしてそれを指摘する現場職員を、企業は人事権を傘に脅しつけるわけです。
 旅客の苦情は上層部に上げない。不条理な指示や命令に黙ってしたがう、そうした悪しき体質の常識化が、無能な上司を育て、上司が現場の文化を否定し、仕事を妨げ、安全をも脅かすことになってしまうわけです。
 JR福知山線の脱線事故以降、上司による現場への不当な圧力が、安全運転を脅かす事実が指摘され、社会問題にもなりましたが、鉄道会社の体質は何も変わっていません。

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