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分社と契約社員

 世間一般の多くの会社でもそうだと思いますが、契約社員の起用は鉄道会社でも最近になって始まったことで、もともとは乗務員も駅係員も正社員でした。輸送の安全を第一義とし、人の手でそれを守って来た鉄道会社が、契約社員を起用するというのは、安全よりも利益を追究した結果であるわけですが、いったいどのようにして契約社員制度を導入するに至ったのか、ここでそのひとつ例をみてみましょう。

 導入に先駆けて、まず駅の分社化が事前に行なわれます。乗務区と駅を別会社(乗務区が親会社で駅が下請け会社)というやり方です。鉄道会社では駅員で入社して乗務員に登用されるスタイルが一般的です。これとは逆に乗務員が駅へ、体を壊して下車勤務になったり、監督職に昇進して転属になったりするケースも少なくありません。しかし駅が別会社になると、乗務区からの転属は傍系会社への出向ということになります。

 会社の勤務形態や雇用条件は、労使協定によって厳密に定められ、会社はこれを逸脱した雇用を行なうことはできません。人事制度や賞罰規定も、すべて労使協定に準じています。社内のあらゆる服務規定の上に労使協定は君臨しているのです。
 契約社員という雇用形態を人事制度に持ち込むには、労使協定を改定しなければならず、労使間の厳密な協議が必要になりますが、駅を分社化して別会社にしてしまえば、新生の会社独自の人事制度を作ることができます。新生の会社には労働組合も存在しませんし、言わば会社のやりたい放題というわけです。
 契約社員やアルバイト職員は、こうして駅という別会社で誕生することになります。駅に入社した契約社員の駅係員は、鉄道会社の登用スタイルに則って、しばらくすると試験を受けて車掌すなわち乗務員になるわけですが、このとき彼らは、乗務区(親会社)の社員になるのではなく、駅(下請け会社)の契約社員のまま親会社への出向を命じられます。
 駅には労働組合はありませんから、親会社の組合が彼らの雇用条件の向上に努めるわけですが、別会社の契約社員の正社員化までは実現できません。かといって新任の車掌が入って来なければ、現役車掌の運転士への登用が停滞してしまいます。こうして労働組合は、下請け会社からの出向契約社員の車掌を受け入れざるを得なくなるのです。契約社員は別会社の職員なので、受け入れに際し、人事制度や労使協定の改定も必要ありません。
 会社はこれに上じて、どんどん契約社員の車掌を乗務区へ送り込みます。乗務員への登用資格には、駅係員としての勤続年数もあるのですが、それを無視して経験浅薄者を次々と車掌にして行きます。車掌の契約社員化が分社の目的にもとれる、あからさまなやり方です。
 これでは車掌が余ってしまうところですが、あらかじめ乗務助役という、職制が運転士を兼任する制度を設け、運転士をそこへ送り込む(つまりイエスマン運転士を増やす)ことで、人事を回し、新任車掌をどんどん必要とするシステムを作っていました。
 こうして車掌の過半数が契約社員という事態を実現させ、それを実績にしてしまうわけです。

 ところが、契約社員システムが稼動して何年かすると、これが偽装請け負いではないかという疑問を抱く人が現れ、疑惑はマスコミにも取り上げられることになります。考えてみれば駅という別会社なんて実在しないのです。社長以下、会社役員も親会社の人間が兼任しているし、職制もすべて親会社からの出向社員。親会社との独立採算制も怪しい。
 偽装請け負い疑惑浮上の問題は、じつは会社にとっては想定内のことで、契約社員システムの実績が出来上がってしまうと、のうのうと下請け会社の統合を宣言します。せっかく分社化して身軽になった経営を、輸送の安全の確立のために、莫大な経費と人件費をかけて再統合する。この発表は偽装請け負い疑惑よりも大きくマスコミに取り上げられ、会社は世間から高い評価を得ることになります。
 労使協定に基づいて、下請け会社の契約社員は正社員にしなければならないのですが、ここで会社は「労働条件承継法」という法律を持ち出し、それに従って契約社員は正社員になっても賃金および労働条件はそのままにすると宣言します。つまり名ばかり正社員です。
 車掌の契約社員システムが稼動して歳月が過ぎ、彼らも最初の雇用契約通り、運転士の試験を受け、合格すれば親会社の正社員にしてもらえる時期になります。ところが、名ばかり社員は運転士になっても名ばかり社員のまま、契約社員時の雇用条件をそのまま継承することになるのです。
 労働条件承継法という法律は本来、会社の横暴から社員を守るためのもので、会社の都合で別会社に出向させられても、出向先に準じて労働条件が引き下げられることなく、これまでの労働条件を継承できるというものなのです。民主主義の世の中で、会社の横暴から社員を守る法はあっても、会社の暴挙を合法化して社員の雇用条件を引き下げるための法などあるはずがありません。つまり、これは会社による法の悪用です。
 このように、契約社員の正社員化で人件費がかさむこともありませんし、もともと実在しないダミー会社の統合に経費はかかりません。統合によって安全確立のために莫大な経費と人件費をかけるという報道は正しくはありません。

 最終的に契約社員はなくなるわけですが、代わりに現場職員の低賃金化が実現するわけです。もともとの正社員とまったく同じ仕事をしながら、はなはだしい賃金格差があるわけですが、それも10年もすればほとんどなくなってしまいます。もともとの正社員が定年や乗務助役への昇進、他部所への移動等でいなくなってしまうからです。現場には経験浅薄のまま乗務員の重責を負わされた低賃金職員だけが残ることになります。一方で、職制や本社勤務の事務職員は、高給をもらい優雅な暮らしを続けるわけです。

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