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安全の低下と労働運動の弱体化

 鉄道会社における最優先事項は、言うまでもなく輸送の安全であるわけですが、会社が考える安全と、現場のそれとではかなりの差があります。会社は、安全保安システムといった設備面の充実には前向きに取り組み、お金も使うのですが、人的安全というものを軽視しがちです。保安装置はあくまで安全確保の補助であり、実際に安全を守るのは人間であると、会社も認めてはいるのですが、その本当の意味を理解しようとしません。
 監督省庁にしてもしかり。企業の保安システムへの投資や、社員教育や適性管理については評価しますが、安全確保のための現場職員の増員や人件費の拡大は評価しません。
 鉄道会社は、鉄道業では派手な儲けは望めないと考え、多角経営に重きを置き、金食い虫の電鉄部門のコストを抑えたいと考えています。そしてコスト削減のターゲットがもっぱら人件費になっているわけです。乗務員の運転時間の延長、ホーム監視用員の削減、ワンマン化。
 社員に対して徹底的な安全教育を行ない、技能や身体能力を充分に管理すれば、小数精鋭による安全確保が可能になる、さらに保安システムを充実させれば完璧だ。会社はそういう図式を描いているようですが、実際には乗務員の質を低下させるようなことばかりやっています。中堅以上の熟練乗務員をリストラの対象にし、経験浅薄な低賃金職員をこれに置き換えるという労務政策で、質の向上が望めるわけがありません。
 鉄道の現場では、合理化による職員の空洞化がどんどん進み、過去から連綿と培われて来た安全確保のためのノウハウの継承がすっかり途切れてしまいました。現場で育った文化というものが、輸送の安全にどれだけ寄与しているかを会社はまったく知ろうとしません。監督職を増員して指導強化を図り、会社が作成した安全規範を現場に押し付けさえすれば現場職員の質は向上する、じつに都合のいい考え方です。
 指導強化は実際のところ、別章で述べたような、監督職が仕事のじゃまをするような事態を招いているだけです。それと現場職員間あるいは監督職との情報交換を途切れさせ、職場の風通しを悪くしています。
 現場の意見は聞きたくない、黙って会社に従え、古い先輩とあまり話しをするな。要するに職場の団結力をくじき、労働運動を弱体化させたい、それが狙いです。
 おかげで、若い乗務員は年長者と話すことを恐れ、自分の判断で仕事をすることを恐れています。上司の目を気にするあまり気持ちのゆとりをなくし、ちょっとしたアクシデントでもパニックを起こしやすくなっています。
 若い乗務員が受けている精神的ストレスは大変なものです。経験不足のまま現場に出され、賃金格差の矛盾や将来不安を抱え、そのうえ監督職が脅しのようなプレッシャーをかけてくるわけです。
 考えられないような特異なミスが増えているのは、乗務員の資質の問題よりも会社の体質、会社の壮大なミスによるものではないでしょうか。しかし会社はミスは個人の責任で、その者に対して厳しく指導を行なう、あるいはその者を職場から取り除く、現場に対しても見せしめと指導強化を行なう、そういう態度です。
 こんな状態ではミスはなくならないどころか増える一方でしょう。あるいは些細なミスで動揺してしまい、事態の悪化を防げなくなってしまいます。そのことが大惨事を招くことにもなりかねません。このことに思い至らない会社や、出世欲に目がくらんだ職制にあきれるばかりです。

 会社が現場の意見を聞かない、パワハラまがいの指導強化をする、職場の風通しを悪くする。こんなふうになってしまう大きな原因は、労働者と労働運動の弱体化です。会社は利益の追究のためなら、不当行為も法律破りも辞しません。それを自粛させ、健全経営に導くのが労働者の団結力であることを多くの労働者が忘れてしまっているところに、大きな問題があります。
 企業倫理やコンプライアンスが大きな社会問題になっているのは、多くの企業で労働者の弱体化が進んでいるからです。
 労働運動を盛り上げることは、労働者の賃金や労働条件を守るためのみならず、企業の不正や腐敗の抑止力にもなります。そしてそのことは、作業の安全を向上させ、公共交通機関にあっては、旅客に提供する輸送の安全の確保にとってもひじょうに重要なのです。

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