タイトル

安全を守る闘い

 これまで別項でも述べて来ましたように、安全は文化です。職場で実際に働く労働者の創意によって安全策が産み出され、種々の問題点が解決されて来ました。事故や失敗が教訓として生かされて来ました。どんなに立派なマニュアルがあっても、すべての異常をそれで解決することはできませんし、安全保安装置は人間の作業を補佐するもので、想定外のアクシデントまでカバーする応用力はありません。
 企業やそれを監督する関係省庁は典型的な縦社会です。経済力という力関係で成り立ったこの社会システムでは、至上の目的は利益です。安全が維持されないと経済的損失につながるから安全を守ろうとするのです。
 ですから安全のための経費が経済力を阻害するようであればそれを削ります。経済効果と両立できる安全策があればそれを優先します。そうした発想から製品管理の規制緩和が進められ、機械化による人減らしが進められるのです。
 労働者の負担が増え、疲労が原因のミスが増えると、企業は事故の個人的責任を追究し、監督省庁は労働者の資質の向上を求めます。ミスを起こした人間にペナルティを加えたり、辞任に追い込んだりすると共に、スタッフ全体の指導や監督の強化、適性基準のレベルアップを行ないます。そうした圧力は労働者を疲弊させ、現場で育まれた文化を疎外します。確認動作がどんどん増え、作業が煩雑になります。
 現場のスタッフは適性検査や健康診断をクリアするために心身の能力のスキルアップに努めなければなりません。厳しい監督下では応用や実験的行為も行なえず、これまで現場で培ってきた慣例的手順も否定されます。
 会社は小数精鋭を求めながら、現場の判断力には期待しません。上層部で考えたマニュアルだけが正しく、安全保安装置はエラーを犯さない。安全保安装置の充実が労働者の負担を軽減するから、その分人を減らして仕事量を増やすことができる。ミスした者に責任をとらせれば、それで会社として責任をとったことになる。さらには、わずかなミスも見逃さず個人に対して責任追究の圧力を加えれば、その者を辞任に追い込み、人員削減ができる。
 企業は安全保安装置を充実させて大きな事故につながるミスをカバーすれば、小さなミスについてはむしろ歓迎しているのではないかとさえ思えます。ミスした者に圧力をかけて、その者を辞任に追い込めるからです。熟練のスタッフや、よく意見を言う中堅のスタッフがミスをすると、会社の責任追究はひじょうに厳しいものになり、会社に忠実で選挙対策などにも協力的な者、契約社員等の低賃金の者の責任はあまり追究しません。監督職のミスにいたっては、それを隠蔽したり、軽微で問題が小さいとごまかしたりします。

 企業や政治が縦社会であり、まして長い歳月を生きながらえ、官僚主義的体質で凝り固まってしまっている状態では、力関係を示し威嚇によって体制を維持することが当たり前になってしまっているので、人間性はまったく失われてしまっています。
 大企業では、実力のある上司たるもの部下に嫌われるくらいでないといけないとさえ言われます。部下に警戒されること、恨まれることが実力の証しになります。幅広い知識や思慮の持ち主よりも、利己的で損得感情の強い者の方が上司に向いています。彼らは、口では立派なことを言い、一見すると利口に見えるのですが、話す内容を注意深く聞くと、ひじょうに短絡的な考えしか持っておらず、他人の意見を聞く能力に乏しいことが判ります。

 筆者は鉄道員なので、交通関係の事情以外にはあまり知識がないのですが、それ以外の様々な業種でも事情は変わらないのではなでしょうか。マスコミの報道で、食の安全、医療の安全、製品やサービスの安全が脅かされている事件を知るにつけ、爛熟社会の弊害がどんどん大きくなるのを感じます。不正や腐敗が発覚したり、事故が発生したりすると、責任の所在ばかりが追究され、縦社会が持つ根本的な欠点を解決しようとは誰も言いません。責任者が辞職して、企業が監督体制を強化したところで、その監督体制自体に問題があるのに、誰もそれを指摘しません。

 筆者は、革命家でもなければ、アンチ資本主義者でもありません。国家というものが存在し、外交によって人間社会が回っている以上、イデオロギーを否定し、世直しを唱えることはあまり意味がありません。
 政治家や企業を攻撃するよりも、むしろ一般民衆にものを言いたいです。民衆ひとりひとりに、もっと自分たちの実力を認識してもらいたいのです。敬遠と無関心によって政治を遠ざけたり、労働組合不信に陥ったりしてほしくないのです。悪いのは政治や企業ではなく、あきらめている我々であることを自覚してほしいのです。
 本箸をお読みいただいた聡明な読者諸氏は、なにが大切でどうすれば良いのか、すでにお分かりのはずです。無理せず小さな努力を重ね、仲間同士の信頼関係を強固にしていくことで、どれだけ大きな力が生まれるか、そのことが企業の体質を変え、政治を動かし、人間社会の明日を築くのだということを、みなさんは理解されているはずです。
 はじめは何もしなくても良いです。前向きな意識を持つ、それだけでも世の中を動かす力になっています。気持ちがあれば行動する機会は必ず訪れます。焦らずゆとりを持って、できることから少しずつ始めてゆきましょう。焦りは禁物です。ひとりで大きなことをしようとするのではなく、みんなが少しずつ力を出し合いましょう。みんなが、ひとりひとりの力を信じ、明るい未来を信じることができれば、世の中は必ず明るい方向に動き出します。人間は遠いむかしから、そのようにして世の中を動かして来たのです。そのようにして権力主義の社会を民主化して来たのです。

 作業の安全、心身の健康は、企業が守ってくれるものではありません。輸送の安全、食の安全、医療の安全、製品やサービスの安全を本当の意味で守っているのは、労働者の団結力なのです。

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