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引き込み線の恐怖

 鉄道の駅の中には、プラットホームに接する通常の線路とは別に、引き込み線というのがある場合があります。駅のホームから少し離れたところに列車を収容できるだけの長さの線路が設けてあり、この引き込み線を利用して、列車は上り線から下り線に番線変更したり、庫外留置といって一字的に車両を留め置いたりします。
 電車によっては、終着駅まで運転せずに、途中駅で折り返すことがありますね。その電車は途中駅が終点になるので、旅客はそこで電車を降りなくてはなりません。
 ところが眠っていたり考え事をしていたり、ヘッドフォンプレイヤーで音楽を聴いていたりして、降りるのを忘れている旅客がいます。乗務員が気づけば降ろしてあげられるのですが、ダイヤ上すぐに電車を移動しなければならないことも多く、加えて長大編成になると、車掌と運転士だけでは目が行き届かないこともあります。
 降りそびれた旅客を乗せたままドアを閉め、転線(番線変更)するために電車が引き込み線に入ってしまうなんてことも、なきにしもあらずです。一般の旅客が、電車に乗って引き込み線に入るなんて、なかなか経験できないので、興味がある方は、乗務員から見つかりにくい長大編成の半ば辺りの車両で、こっそりとタヌキ寝入りでもしていると、運が良ければ未体験ゾーンに拉致られます。
 引き込み線に入った電車は、進入したところからポイントを渡って別の線路へと出て行くので、運転士と車掌は乗務位置を交代します。これまで先頭だった車両が最後尾になり、運転台が車掌室になるわけです。乗務員は電車の中を歩いて乗務位置交代するので、この時、引き込み線への進入を果たした旅客は、乗務員に見つかってしまいます。
 べつに叱られたりしませんよ、わざとです、なんて言わないかぎり。でも中には逆ギレする旅客もいます。自分が寝過ごしたことを棚に上げて、なぜ起こさなかった、仕事やる気あんのか、なんてね。だから、鉄道はセルフサービスなんですって。我々乗務員がもっとたくさんサービスしてあげたくても、鉄道会社も国土交通省もそんな考えはさらさらおまへんのです。
 ま、たいていの旅客は知らないところに来てしまった不安からか、すっかり恐縮されて、謝って来られるんですが、なんかとっても気の毒になってしまいます。こちらこそ気づかなくて申し訳ありませんでした、ホームに電車を戻すまで、こままお待ちください、と言うしかありません。
 ある時、途中駅で旅客を降ろした筆者は、誰もいない(はず)の電車を引き込み線に入れるべく、低速で電車を走らせていたんですね。なんか気分がよかったので、アニソン(アニメソングだね)とか歌いながら。筆者はオタクですから。
 そしたらいきなり、乗務員室のドアがけたたましく叩かれたんですね。女子高校生とおぼしきが、半泣きですっかりうろたえてて……。ま、拉致られたのが引き込み線で、拉致ったのが鉄道員だったから良かったものの、じゃなくって。
 電車を停止させてから、乗務員室を出た筆者に、彼女は悲愴な声で「すみません、寝過ごしてしまって」そんなに脅えなくても取って食やしませんて。というより聞いてました? 「はい、おジャ魔女カーニバルですよね。私は、はづきっち萌えです」相変わらずうろたえたまま、彼女は筆者の口ずさんでいたアニソンを見事に看破したのでした。
 うっわ、恥ずっ! 彼女が筆者の同類なのが唯一の救いのような、そうでないような。後日、彼女は家や学校で、キモい運転士が引き込み線で「おジャ魔女ドレミ」歌ってた、なんて吹聴して回ったことでしょう。
 次回は、車掌用マイクを使って絶唱してやる!

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