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引き裂かれた家族

 始発駅の車内で列車の発車を待っているとき、車内がガランとしていると、なんだか貸し切りみたいな気分になって、家族でロングシートに向かい合わせに座ってみたり、よく見かける光景です。
 ロングシートというのは、通勤通学用を重視した都会型の電車によく見られるもので、列車の側面に沿って長いシートが配置され、それに沿って吊り革が天井からぶら下がっています。
 長距離列車のように2人掛けシートが列車の側面に対して垂直に並んでいる(バスなどもそうですね)場合は、背もたれを転換して対座シートを仕立てることができますが、ロングシートで向かい合わせに座ると、通路をはさみますから互いの距離は大きくなってしまいます。
 ロングシートと言えども、車両に乗務員室がある場合は、その分だけシートが短くなり、一部の座席だけ2〜3人掛けの短いものになります。乗務員室に隣接する座席は、通路をはさんで短いシートが向き合うことになり、これが家族や数人の仲間連れに人気があったりします。そのスペースを知り合いだけで独占できるからです。
 しかしながら、車内の混雑状況は刻々と変化するので、快適なコンパートメント状態は多くの場合長くは続きません。せっかく家族で歓談していたのに、いきなり学生の団体とかがワラワラ侵攻してきて、向かい合った座席と座席の間の通路を埋めてしまいます。始発駅を発車するとき、車内が空いていても2駅3駅と停車するうちに混雑して来ることはよくあることです。
 例えば、知人同士4人で向かい合って座ったとしましょう。突然の多客襲来で、4人の対座コミュニケーションが阻まれると、仕方ないのでとなり同士2人ずつの会話が始まります。これはまだ良いでしょう。
 3人だった場合、向こう岸の座席の1人は孤立してしまいます。2人だった場合、お互いに孤立してなんとも味気ない旅行になってしまいます。よくあるんですよね、男女の仲むつまじいカップルが、非情な客の群れに引き裂かれてしまうという状況。引き裂く方は、そんなこと全く存じ得ないわけですから、恋人同士の間にドヤドヤと人垣を作り、団体戦で会話を始めます。列車の騒音に負けないよう大きな声で。哀れな恋人同士はまるで生き別れです。
 家族連れで対座した場合。両親が並んで座り、子供たちだけが向こう岸のシートにってことが少なからずあります。やっぱ子供同士の方が楽しいのでしょうね。そしてそこへ通路を埋める人波の襲来です。子供たちの小さな体は、荒波の向こうへ消え去り影も形もありません。座席に反対座りになって窓の外を眺めていた子供たちの方も、背後の異変にきづいて振り返ると、そこには屈強な体育会系マッスルボーイの厚い壁が。……恐ろしいですね。
 こういう光景は多くの場合、乗務員室前で起こりますから、車掌はしばしば悲劇の目撃者になります。最初は空いていてもどの辺りから混んでくるのか把握している車掌は、もう間もなく悲劇が訪れると知りつつ、手をこまねいて見ているしかありません。大変つらいっす。
 もうすぐ混んでくるから、お子様と一緒に座られた方が良いですよ、なんて声をかけたこともありますよ。でもね、誤解されることが多いんですね、これが。こちらは親切のつもりで言ってるのに、言われた方は、もっと詰めて座れと指示されたように感じるんですね。気持ちを伝えるというのは難しいものです。
 人の波によって引き裂かれた家族が、目的の駅で下車するのがまた大変です。親は人波をかき分けて子供たちのところにたどり着き、靴を履かせたり、いろいろ世話をやかねばなりません。ちゃんと元の場所にいてくれれば良いですが、子供はじっとしていないこともあります。目的の駅が近づいてくるのに子供が見当たらない、まさか勝手に途中で降りてしまったのでは、考えるだけでぞっとしますね。

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